現代の子供たちは、多くが過保護に育てられているが、これは免疫力は低下させてしまう

長男、長女は、アレルギーになりやすい

TVで時代劇などを見ていると、将軍家の子どもたちには早死にする人が多いことに気がつきます。

将軍の跡取り息子は、「蝶よ、花よ」と大事に育てられ、ちょっと転んだだけでお付きの者たちが大騒ぎします。食事も、お腹をこわしてはいけないと煮たものぼかりを食べさせられていました。

言ってみれば、将軍家の子どもたちは無菌室で過保護に育てられた状態だったために、子どもたちの免疫力が低下して病気になりやすかったのかもしれません。

現代の子どもたちには、そんな将軍家の跡取り息子と似たようなところがあるのかもしれません。

親として、子どもをウィルスや細菌から守り、極力清潔な環境のなかで育てたいと願う気持ちはわかります。しかし、それが過保護になったり、清潔すぎる環境を与えることにつながるのです。

ここに興味深いデータがあります。1つは、兄弟の数が多いほど、アレルギーになる子どもは少ない、というものです。

ひとりっ子だと、どうしても子どもに手をかけすぎてしまいます。何かにつけて「バッチイ、バッチイ」と子どもの行動を制限し、「ご飯の前はちゃんと石けんでキレイに手を洗いなさい」などと口やかましく言い、衣服や寝具などの子どもの肌に触れるものは抗菌グッズで揃える…といった具合になります。
しかし、兄弟が多いと、みんなに目が行き届かない分、少しいい加減になって、その結果アレルギーが抑えられたのです。

また、第一子ははかの兄弟に比べてアレルギーになりやすいこともわかっています。

お母さんも第一子には、神経質に手をかけ育てるのでしょう。第二子、第三子になると、いい意味で手を抜くのはどこの家庭も同じなのです。現実的に第一子のように全員に時間とお金をかけていたら大抵もちません。

たとえば、第一子には必ずほ乳瓶を煮沸して洗っていたけれど、第二子以降は煮沸しなくなります。あるいは、おっぱいをあげるときに、最初の子には乳首を消毒していたけれど、次の子からはそのまま飲ませるなど、子どもをあまり清潔にしすぎないように育てることになり、アレルギーを抑えられたのです。

同様の調査がイギリスでも行われていますが、結果は同じでした。

早くから保育園に預けられた子どもは強い!

親が手をかけすぎないという部分では、早くから保育園に預けられた子どものはうがアトピーになりにくい、というデータもあります。
保育園には、大勢の子どもたちがいて、いっしょに遊んでいます。オモチャなどその辺に転がっている物をみんなが触り、その手をしゃぶったり、つないだりしながら、自然とウィルスや菌にさらされる機会が多いのです。そのおかげで、幼いうちから免疫力がつくのです。

一方、家で子育てをしているお母さんは、子どもの一挙手一投足を見ていますから、たとえばテーブルや床に落ちたものを拾って食べようとしたり、オモチャを触った手を口にもっていったりすると、つい「汚い!」と叱ります。

また、部屋を神経質なくらいキレイに掃除したり、子どもの触れる物を消毒したりで、賢明に子どもをウィルスや菌から守ろうとします。それが逆効果になって、アレルギーを発症させてしまう結果になるのです。また、母親が働いている場合には、子どもがアレルギーになりにくいこともわかっています。

子どものアレルギーを予防する食事のルール

土の上の餌をついばんでいる地鶏と、ハウスのなかで人からもらっている餌を食べているブロイラーというニワトリと、どちらが元気でしょうか。地鶏の肉とブロイラーの肉と、どちらがおいしいでしょうか。地鶏が元気だったり肉がおいしいのは、土の上の餌を食べるときについでに土壌菌も口にいれているからです。私たちの最近の研究によると、土壌菌を腸内に入れると腸内細菌が元気になることがわかりました。

子どもをアトピーにさせない方法として、「第一に、子どもの食べものは主として落ちたものを食べきせること。第二に、食事中に必ず足の指をなきせることだ」という持論があります。それを聞くと全員が「非常識だ」と言いますが、私の言っていることが常識であって、それを笑うみなさんのはうが非常識なのです。

乳幼児が何でもなめたがるのは、バイ菌を体内に入れようとするためで、彼らはそれが健康にいいと、本能的に知っているのです。

泥遊びが最高

子どもたちほ遊ぶことが仕事です。しかし、都会では子どもたちの遊び場が減り、ゲームの登場もあって、外で遊ぶ子がめっきり減ってきたようです。

幼稚園に始まる「お受験ブーム」で、お勉強に忙しい子どもたちが増えている、という現実もありますが、健康のためにも、心の発育のためにも、外で少しでも泥んこになって遊ばせることが健康につながります。

「泥遊びをしている子どもには、アレルギーが少なく、部屋でゲームなどの「一人遊び」をしている子どもは、アレルギーになりやすい」ということが判明しています。

子を持つ親1万人余りを対象にしたこの調査では、「屋内の遊びが多くなった」「全体として友だち同士の遊びが少なくなった」と答えた人のうち、40%前後の子どもがアレルギーになっていたのです。

泥のなかには、人体内に入ると長くない細菌も確かにいます。しかし、その細菌がいる確率はきわめて低いのです。一方で、子どもの免疫力を高めることに役立つ菌もたくさんいます。そういった菌にまったく触れさせないと、体の免疫力が弱まってしまうのです。

したがって、「抗菌砂」で遊ぶと、かえって免疫力が落ちてしまうのです。

「公園の砂場で子どもを遊ばせるのは汚いです。犬や猫の便があるし、砂にはバイ菌がいっぱいです。抗菌砂に替えましょう」と、以前はよく業者が売り込みをかけていたようです。

外遊びから帰って来たら、きちんと手洗いすることは必要です。しかし、殺菌成分の強い薬用石けんではなく、ふつうの石けんを使いましょう。
また、休みの日にはどんどん、アウトドア体験をさせてあげましょう。自然と触れ合い、泥んこ遊びをすると、免疫力が高まるだけでなく、楽しい気持ち灯もなります。

母乳はアレルギーの発症を抑える

動物の赤ちゃんは母親の便をなめる

コアラの赤ちゃんは、生まれるとすぐ土をなめたり、お母さんの便をなめたりします。これは、土のなかやお母さんの便のなかにある細菌類をお腹に入れないと、コアラの餌であるユーカリという毒のある葉を無毒化できないからです。

コアラの赤ちゃんは、生まれながらにしてユーカリの葉を無毒化する酵素を持っているわけではありません。だから本能的に、土をなめたりお母さんの便をなめで、自分の腸内細菌を増やそうとするのです。

パンダの赤ちゃんも同じです。パンダの体には餌の堅い笹の葉を消化する酵素がないために、生まれるとすぐに土をなめたり、お母さんの便をなめて細菌をお腹に入れます。腸内細菌が笹の歯を消化してくれるからです。

また、ウサギは下痢をすると、元気なときの自分の便を食べます。この行為には「腸を元気に保ってくれている細菌を膿のなかに取り入れて、腸内環境を整える」という目的があったのです。つまり、元気な動物の便に含まれる腸内細菌は、ある意味で「腸内環境を整える薬」と考えることができます。

人間も同じです。でも、誤解しないでください。「便をなめなさい」と言っているのではありません。「自分の便を汚いからと無視しないで、毎日ちゃんと見てください」、「腸内細菌には重要皇息味があるのだから、むやみに悪者扱いしないでください」ということです。

無菌で育てられた赤ちゃんは弱くなる?

お母さんのお腹のなかにいる赤ちゃんは無菌状態にあります。栄養はへその緒を通して、血液から吸収しています。

そして、この世に生まれ出た瞬間に、大腸菌をはじめとする細菌が一度に入ってきます。生まれてくるときに通る産道や、お母さんの肛門付近にいる細菌たちと触れ合うことにより、いつの間にかたくさんの腸内細菌が赤ちゃんのお腹に棲みつくようになるのです。

これは自然の摂理で、いわば腸から栄養を吸収するための準備のようなものなのです。腸内細菌は、赤ちゃんが口にしたものを分解・合成して、栄葺につくりかえてくれるからです。

以前、アトピーが治らない赤ちゃんの便を調べたことがありましたが、その結果、40%の赤ちゃんの便から大腸菌がまったく検出きれませんでした。まるで生まれてすぐ無菌室に入れられ、無菌の栄養を与えられたような状態で育てたのでしょう。

そんなことからも、大腸菌をはじめとする腸内細菌にはアレルギーを抑える働きがあると推察されます。

さて、そんな生まれたばかりの赤ちゃんに必要なのは、お母さんのおっぱいです。母乳には赤ちゃんの免疫機能を高める効果があることはよく知られています。

では、母乳のどんな成分が、赤ちゃんにとっていい働きをするか紹介します。

  • オリゴ糖
    ビフィズス菌の餌となって腸内のビフィズス菌を増殖させます。
  • ラクトペルオキシダーゼ
    腸のなかに入ると抗菌作用を発揮します。
  • リゾチーム
    細菌の細胞壁を溶解させます。
  • ラクトフェリン
    鉄と結合することにより、腸内有害菌の増殖を抑制します。
  • 補体成分
    白血球などによる会食(異物を捕食する)作用を促進します。
  • 分泌型IgA
    腸管や気道における細菌・ウィルスの感染を防御します。

このように母乳のなかには体を防御するすばらしい物質が入っているのです。とくに生後3週間くらいまでの初乳には、腸内有害菌の増殖を抑制したり、腸管を成長させるなど、理想的な免疫システムを構築する作用があるのです。

アレルギーのない環境

幼い頓に身につけた免疫力

私が子どもの頃に育った環境というと。父親が結核の専門医だった関係で、私は人気のない田舎につくられた国立の結核療養所の敷地にある宿舎で育ちました。

病原菌の巣と目される宿舎から小学校に通っていたので、大変いじめられました。しかし、私はいじめられても死のうなどと思ったことは一度もありませんでした。いじめっ子と戦いながら自然のなかで元気いっぱいに遊んだものです。

いじめに負けない強い心を持つことができたのは、小学校低学年から世話をしていたヤギのおかげかもしれません。毎朝餌をやり、乳を搾り、天気の良い日は小屋から草地に出してやり、本当にかわいがっていました。
私が学校から帰って来ると、姿の見えないうちからヤギのメェメェ鳴く声が聞こえたのです。ヤギのはか、ニワトリを30羽、ウサギを5羽飼っていたこともあって、自分より弱い者がいることを学びました。

そんな経験から、ペットを飼うのは子どもにとって大変良いことだと思います。情緒面の発達から見て、大き皇息味があります。また、遊びといえば、田んぼでドジョウを捕ったり、カエルをつかまえて肛門に麦わらを突っ込み、そこから息を吹き込んでお腹をパンパンに膨らませたり、トンボの尾を切って飛ばしたりしました。

少年時代は、いつも泥んこになって転げ回っている自然児でした。

ぉかげで私は、70歳を過ぎてもなお、いたって健康です。大人が「汚い」と顔をしかめるような環境のなかで自由に遊び、細菌やウィルスにさらされる機会が多かったため、幼いうちに免疫力がついたのだと思います。

お腹の中は回虫がいっぱい

子どもの頃の私のお腹には、回虫がいました。1950年代は、それが当たり前でした。

とくに私は、畑に行ってトマトを丸かじりしたり、収穫後の白菜の根っこを生でむしゃむしゃ食べたりしていましたから、回虫がいつもお腹にいました。回虫はだいたい生野菜から体内に侵入します。当時は肥料が人糞で、発酵させて使っていましたが、なかには少し「ナマの人糞」が残っていることもあったようで、その人糞のなかに、回虫の卵がそれこそうようよといたわけです。回虫は1日に20万個の卵を産みますからすぐに感染してしまいます。

日本人はそのころ生野菜などは食べず、お漬物か煮物、せいぜいおひたしにして食べていました。それが、回虫を無防備に体内に取り込ませない知恵でした。
しかし、畑で生野菜を食べていた私のお腹のなかは「回虫だらけ」になったのです。

戦後になって、各市町村に「寄生虫予防会」が組織され、小中学校を中心に「回虫駆除デー」が設けられました。きっかけは、アメリカ人が日本に進駐したときに、生野菜を食べたら回虫だらけだったことでした。西洋では日本と違って肥料に人糞を使わなかったので、野菜を生のサラダにして食べる習慣があったのです。当時、日本に駐留したアメリカ人は、免疫のないまま一気に大量の寄生虫が体内に入ったため、お腹をこわして、相当苦しんだようです。

日本で人糞を肥料にするようになったのは、徳川家康が四十万人の兵を連れて関東にやって来たときからです。関東の土地は痩せているので、四十万人の食料を確保するのが大変でした。それで、人糞を肥料にして、野菜を育てることにしたことがきっかけです。

だから、江戸時代は便の値段がものすごく高かったのです。長屋の大家さんが長屋の便をすべて管理しており、「家賃はいらないから立派な便をしてくれ!」と言ったとか、言わないとか。おかげで江戸の町は、便や生ゴが肥料としてリサイクルされて、非常に清潔に保たれていました。

その点、19世紀初頭には江戸と同じ100万都市であったフランス・パリでは、便をあくまでも汚物と考え、道に投げ落としていたから大変に汚かったそうで、女性は、2階から落ちてくる便を浴びないようにパラソルをさし、道に落ちた便を踏まないようにハイヒールをはき、どこでも便ができるように落下傘みたいなスカートをはいたと伝えられています。そのおかげで、フランスでは下水道が発達したのです。

日本に駐留したアメリカ人が、日本の生野菜に閉口したので、マッカーサーが直々に吉田首相に「この不潔さを何とかしなさい」と苦言を呈して設けられたのが「回虫駆除デー」だったのです。

私たちは月に1度のこの日を楽しみにしていました。海人草という海藻を大きな鍋でぐつぐつと煮て、その煮汁を飲まされるのですが、これが効いて夕方にはお腹のなかの回虫がお尻から出てきます。その長い虫を引っ張り出すのが、非常に気持ちよかったのです。

当時の子どもたちははぼ全員 が「回虫持ち」でした。回虫と毎月顔を合わせているので、慣れっこでした。

それに、引っ張り出した回虫を洗って、翌日学校に持っていくと、ど褒美がもらえたのです。一番長い回虫を出した人は一等賞で、たくさん出した人は最多賞でした。回虫の駆虫デーの翌朝は、みんなの回虫が教壇に山と積まれました。

スギ花粉は昔のほうが多かった

スギをはじめヒノキ、ブタクサ等さまざまな植物の花粉がアレルゲンとなって、くしゃみや鼻水、目のかゆみなどを起こす花粉症は、どんどん低年齢化が進んでいます。その背景には、大気汚染による免疫増強因子の増加や、都市化および住環境の変化、スギの植生・花粉飛散量の増加など、さまざまな因子が関与していると言われてきました。

本当にそうなのでしょうか?

大気汚染はフィルター等の技術のない昔のほうがひどく、スギ花粉だって青から飛んでいます。その頃に花粉症になる人はほとんどいなかったのですから、これらの理由は少し説得力に欠けます。

回虫をはじめとする「寄生虫感染率が急減したこと」が大きく影響しているのかもしれません。

昔の子はスギ花粉まみれだったはずです。スギ花粉といって、竹筒でスギの実をパチンと撃つ遊びのために、花粉でまっ黄色になりながらスギの実をたくさん拾い集めたものです。

女の子に「金髪にしてあげるよ」と言って、花粉を髪の毛にいっぱい塗ってあげたこともあります。女の子にモテたい一心で編み出した遊びですが、女の子にも非常に喜ばれました。私たちの時代は、誰も彼もそんなふうにスギ花粉まみれでしたが、子どもたちは誰も花粉症にはなりませんでした。長じて、花粉まみれの「回虫持ち」だった少年時代のこの経験が、「寄生虫がアレルギーを抑える」研究を始めるヒントにもなりました。

ここまで私は回虫やサナダ虫など寄生虫の話ばかりを並べてきましたが、いまは、「アレルギー反応は寄生虫だけではなく、細菌やウィルスなどの微生物が抑制する」ことがわかってきました。

宿主にやさしいのは、寄生虫も細菌・ウィルスも同じです。彼らは1人では生きられないからこそ、宿主の免疫バランスを保つなどの役割を担ってきたように思います。

細菌やウィルスは、必要以上に排除することなく、ふつうに共生していればよい影響を受けることができるのです。ただし、寄生虫や紳菌・ウィルスのなかで人間に悪さをしないのは、大昔から人間とうまく共生しているものだけです。たとえば、キタキツネに寄生するサナダムシであるエキノコックスや、中国発祥のSARSウィルス、鳥インフルエンザウィルスなど、動物に寄生するものには、人間にとって「怖いもの」もいます。その点は誤解してはいけません。大変なことになってしまいます。