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腸内細菌は健康のバロメーター

年齢で変わる腸内フローラ

アレルギーを治療するうえでは、「自然治癒力」という東洋医学的発想を持つことが重要です。

「自然治癒力」とは、人間が生まれながらに持っている、病気やケガを治す力のことをいいます。皮膚常在菌やデーデルライン乳酸菌、腸内細菌なども自然治癒力のひとつです。

その「自然治癒力」のなかでも最も大きな部分を担う腸内細菌についてです。

ひとくちに腸内細菌と言っても、驚くくらいの種類と数があります。詳細な研究によると、大腸には500種類以上、100兆個以上の細菌が棲息しているといわれています。ひとつひとつの細菌の重さは限りなく0に近いけれども、総重量は約1.5kgにも達するといいます。

これら無数の細菌が腸のなかに「腸内フローラ」と呼ばれる「細菌のお花畑」を形成しているのです。

その「腸内フローラ」は年齢とともに変化します。乳幼児期の腸内にあるのは90%以上がビフィズス菌です。いわゆる善玉菌で、悪玉菌と呼ばれる大腸菌やウェルシュ菌などはどくわずかです。

ただし、これはあくまでも一般的な話です。実年齢は年寄りでも、腸年齢は若い人もいます。逆に、実年齢は若くても、腸は老年期のような人もいます。

実際、テレビ番組で20代の若い女性の便を調べたところ、通常は腸内細菌の10~15%を占めるビフィズス菌が0.01%以下だったことがあります。彼女はど飯を炊いたことがなく、お菓子ばかり食べていたそうです。

彼女のように腸内細菌が「老化″」していると、出産した場合、子どもはかなり高い確率でアレルギーになります。胎児期に十分な免疫力を分けてもらえないからです。

いずれにせよ、体の元気は腸がつくるわけですから、いくつになっても腸年齢が若いに越したことはありません。腸内にビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌類を増やす必要があります。

自分の腸内を自己チェックするならこちらです。
実際の年齢よりも老けて見られてしまうことが多い人に | Health Check

善玉・悪玉・日和見のバランスが大事

ここで「善玉菌」「悪玉菌」という言葉を使いましたが、本来は腸内細菌に善も悪もありません。

たしかに、善玉菌の代表である乳酸菌群は、腸のなかを酸性にしています。多くの有害な菌は酸性状態では生きられないので、乳酸菌は外来の有害な菌からの攻撃を防ぐ作用があります。

また、ビフィズス菌の菌体成分には、免疫力を増強する物質が含まれることがわかっています。「善玉」と呼ぶのにふさわしい働きをしてくれるわけです。

では、悪玉菌はどうでしょうか。

たんばく質やアミノ酸を分解して、インドール、フェノール、アンモニア、硫化物、アミン等の有害物質を生成します。これらの物質が腸から体内に送り出されると、さまざまな臓器が障害を受けます。

それで高血圧やガンなどの生活習慣病を起こしたり、老化を早めたりするため、悪玉菌と「悪者」扱いされるわけです。

しかし、こういう悪い作用は、増えすぎるから起こるのです。善玉菌がたくさんいて、悪玉菌を抑えてバランスを保っていれば何も問題はないのです。健康な人の腸にも、悪玉菌がいるのは、良い働きもしているという証拠です。

それに、たとえば大腸菌には、ビタミンを合成したり、他の有害な細菌が大腸に定着するのを阻害するなど、私たちを病気から守ってくれる働きもあります。大腸菌は増えすぎると悪さをしますが、良いこともしているのです。

だいたい日本人は、善玉・悪玉に分けると、善玉ばかりものすごくかわいがって、悪玉をとことんいじめ抜く傾向があります。

善玉・悪玉に分けたとしても、悪玉菌は決して「いらないもの」ではありません。加えて腸内細菌には、善玉・悪玉の中間というか、ふだんは人間に良いひよりみことをしているけれど、体調を崩すと悪さをする「日和見菌」と呼ばれる細菌もあります。

大事なのは、大きく分けて3種類の腸内細菌善玉菌・悪玉菌・日和見菌のバランスがとれていることなのです。

「善玉菌いっぱい、日和見菌はどはど、悪玉菌少々」が、腸内細菌類の最もバランスがとれた状態です。

O-157は清潔なところで猛威を振るう

なぜ、大腸菌は悪者扱いされるのでしょうか。おそらく、江戸や明治の時代に、「東京湾の水は汚染されていて、大腸菌が見つかった。ということは、コレラ菌や赤痢菌もいるかもしれない」ということで、大腸菌が汚染の指標になったことが始まりでしょう。
しかし、大腸菌そのものは悪くはありません。たとえば、私たちが食べる野菜の主成分、繊維質(セルロースを分解してくれるのは、大腸菌をはじめとした腸内細菌なのです。

そんな大腸菌を私たちは抗生物質や殺菌剤でいじめました。しかし、大腸菌も生き物ですから、生き延びることに必死です。人間のいじめに何とか抵抗しようと、遺伝子を変えたりしながら約200種類くらいの「変種」を生み出しました。その157番目に生まれたのが「O-157」なのです。

このO-157は毒素を産生する菌です。ただ、全部で100のエネルギーがあるとしたら、そのうちの70を毒素の産生に使うので、生きる力は30ほどしかありません。生きる力が弱くとてもヤワな菌です。だから、雑菌の多いところでは生きていけません。屋台や掃除をあまりしていない台所のように、雑菌だらけのところにいたとしても、すぐに雑菌に殺されてしまいます。

したがって、世界一清潔なな学校給食の場でO-157が猛威を振るえたというわけです。

その運び屋と疑われたのがカイワレダイコンです。無菌で育った野菜だからです。土から生えた大根だと、いろんな菌がいますから、O-157などすぐに雑菌に殺されてしまって運び屋にならないというわけです。また、O-157を飲み込んでしまっても、みんなが下痢を起こすわけではありません。腸に「大腸菌」が多く存在するとO-157が追い出されてしまいます。

実際、大阪の堺でO-157が流行したときに小学生の便を調べたところ、O-157がたくさんあるのに一度も下痢をしていない子どもが30 %もいました。

一方、ちょっと下痢をした子どもは58% で、何度も下痢を繰り返して入院するほどの重篤な症状をきたした子どもは12% でした。
追跡調査をしてわかったのは、O-157で重症になった子どもはみんな、山の手の一戸建てに住む子どもたちでした。お母さんが清潔に対して非常に神経質で、子どもに泥んこ遊びもさせていませんでした。一方、一度も下痢をしなかった子どもは、揃って下町育ちでした。泥んこ遊びをする子たちだったのです。

O-157が存在するのは、大腸菌をいじめたアメリカ、カナダ、日本、ドイツ、イギリス、フランスなどの「キレイ社会」だけです。インドネシアには存在していないのです。

現代の子供たちは、多くが過保護に育てられているが、これは免疫力は低下させてしまう

長男、長女は、アレルギーになりやすい

TVで時代劇などを見ていると、将軍家の子どもたちには早死にする人が多いことに気がつきます。

将軍の跡取り息子は、「蝶よ、花よ」と大事に育てられ、ちょっと転んだだけでお付きの者たちが大騒ぎします。食事も、お腹をこわしてはいけないと煮たものぼかりを食べさせられていました。

言ってみれば、将軍家の子どもたちは無菌室で過保護に育てられた状態だったために、子どもたちの免疫力が低下して病気になりやすかったのかもしれません。

現代の子どもたちには、そんな将軍家の跡取り息子と似たようなところがあるのかもしれません。

親として、子どもをウィルスや細菌から守り、極力清潔な環境のなかで育てたいと願う気持ちはわかります。しかし、それが過保護になったり、清潔すぎる環境を与えることにつながるのです。

ここに興味深いデータがあります。1つは、兄弟の数が多いほど、アレルギーになる子どもは少ない、というものです。

ひとりっ子だと、どうしても子どもに手をかけすぎてしまいます。何かにつけて「バッチイ、バッチイ」と子どもの行動を制限し、「ご飯の前はちゃんと石けんでキレイに手を洗いなさい」などと口やかましく言い、衣服や寝具などの子どもの肌に触れるものは抗菌グッズで揃える…といった具合になります。
しかし、兄弟が多いと、みんなに目が行き届かない分、少しいい加減になって、その結果アレルギーが抑えられたのです。

また、第一子ははかの兄弟に比べてアレルギーになりやすいこともわかっています。

お母さんも第一子には、神経質に手をかけ育てるのでしょう。第二子、第三子になると、いい意味で手を抜くのはどこの家庭も同じなのです。現実的に第一子のように全員に時間とお金をかけていたら大抵もちません。

たとえば、第一子には必ずほ乳瓶を煮沸して洗っていたけれど、第二子以降は煮沸しなくなります。あるいは、おっぱいをあげるときに、最初の子には乳首を消毒していたけれど、次の子からはそのまま飲ませるなど、子どもをあまり清潔にしすぎないように育てることになり、アレルギーを抑えられたのです。

同様の調査がイギリスでも行われていますが、結果は同じでした。

早くから保育園に預けられた子どもは強い!

親が手をかけすぎないという部分では、早くから保育園に預けられた子どものはうがアトピーになりにくい、というデータもあります。
保育園には、大勢の子どもたちがいて、いっしょに遊んでいます。オモチャなどその辺に転がっている物をみんなが触り、その手をしゃぶったり、つないだりしながら、自然とウィルスや菌にさらされる機会が多いのです。そのおかげで、幼いうちから免疫力がつくのです。

一方、家で子育てをしているお母さんは、子どもの一挙手一投足を見ていますから、たとえばテーブルや床に落ちたものを拾って食べようとしたり、オモチャを触った手を口にもっていったりすると、つい「汚い!」と叱ります。

また、部屋を神経質なくらいキレイに掃除したり、子どもの触れる物を消毒したりで、賢明に子どもをウィルスや菌から守ろうとします。それが逆効果になって、アレルギーを発症させてしまう結果になるのです。また、母親が働いている場合には、子どもがアレルギーになりにくいこともわかっています。

子どものアレルギーを予防する食事のルール

土の上の餌をついばんでいる地鶏と、ハウスのなかで人からもらっている餌を食べているブロイラーというニワトリと、どちらが元気でしょうか。地鶏の肉とブロイラーの肉と、どちらがおいしいでしょうか。地鶏が元気だったり肉がおいしいのは、土の上の餌を食べるときについでに土壌菌も口にいれているからです。私たちの最近の研究によると、土壌菌を腸内に入れると腸内細菌が元気になることがわかりました。

子どもをアトピーにさせない方法として、「第一に、子どもの食べものは主として落ちたものを食べきせること。第二に、食事中に必ず足の指をなきせることだ」という持論があります。それを聞くと全員が「非常識だ」と言いますが、私の言っていることが常識であって、それを笑うみなさんのはうが非常識なのです。

乳幼児が何でもなめたがるのは、バイ菌を体内に入れようとするためで、彼らはそれが健康にいいと、本能的に知っているのです。

泥遊びが最高

子どもたちほ遊ぶことが仕事です。しかし、都会では子どもたちの遊び場が減り、ゲームの登場もあって、外で遊ぶ子がめっきり減ってきたようです。

幼稚園に始まる「お受験ブーム」で、お勉強に忙しい子どもたちが増えている、という現実もありますが、健康のためにも、心の発育のためにも、外で少しでも泥んこになって遊ばせることが健康につながります。

「泥遊びをしている子どもには、アレルギーが少なく、部屋でゲームなどの「一人遊び」をしている子どもは、アレルギーになりやすい」ということが判明しています。

子を持つ親1万人余りを対象にしたこの調査では、「屋内の遊びが多くなった」「全体として友だち同士の遊びが少なくなった」と答えた人のうち、40%前後の子どもがアレルギーになっていたのです。

泥のなかには、人体内に入ると長くない細菌も確かにいます。しかし、その細菌がいる確率はきわめて低いのです。一方で、子どもの免疫力を高めることに役立つ菌もたくさんいます。そういった菌にまったく触れさせないと、体の免疫力が弱まってしまうのです。

したがって、「抗菌砂」で遊ぶと、かえって免疫力が落ちてしまうのです。

「公園の砂場で子どもを遊ばせるのは汚いです。犬や猫の便があるし、砂にはバイ菌がいっぱいです。抗菌砂に替えましょう」と、以前はよく業者が売り込みをかけていたようです。

外遊びから帰って来たら、きちんと手洗いすることは必要です。しかし、殺菌成分の強い薬用石けんではなく、ふつうの石けんを使いましょう。
また、休みの日にはどんどん、アウトドア体験をさせてあげましょう。自然と触れ合い、泥んこ遊びをすると、免疫力が高まるだけでなく、楽しい気持ち灯もなります。

母乳はアレルギーの発症を抑える

動物の赤ちゃんは母親の便をなめる

コアラの赤ちゃんは、生まれるとすぐ土をなめたり、お母さんの便をなめたりします。これは、土のなかやお母さんの便のなかにある細菌類をお腹に入れないと、コアラの餌であるユーカリという毒のある葉を無毒化できないからです。

コアラの赤ちゃんは、生まれながらにしてユーカリの葉を無毒化する酵素を持っているわけではありません。だから本能的に、土をなめたりお母さんの便をなめで、自分の腸内細菌を増やそうとするのです。

パンダの赤ちゃんも同じです。パンダの体には餌の堅い笹の葉を消化する酵素がないために、生まれるとすぐに土をなめたり、お母さんの便をなめて細菌をお腹に入れます。腸内細菌が笹の歯を消化してくれるからです。

また、ウサギは下痢をすると、元気なときの自分の便を食べます。この行為には「腸を元気に保ってくれている細菌を膿のなかに取り入れて、腸内環境を整える」という目的があったのです。つまり、元気な動物の便に含まれる腸内細菌は、ある意味で「腸内環境を整える薬」と考えることができます。

人間も同じです。でも、誤解しないでください。「便をなめなさい」と言っているのではありません。「自分の便を汚いからと無視しないで、毎日ちゃんと見てください」、「腸内細菌には重要皇息味があるのだから、むやみに悪者扱いしないでください」ということです。

無菌で育てられた赤ちゃんは弱くなる?

お母さんのお腹のなかにいる赤ちゃんは無菌状態にあります。栄養はへその緒を通して、血液から吸収しています。

そして、この世に生まれ出た瞬間に、大腸菌をはじめとする細菌が一度に入ってきます。生まれてくるときに通る産道や、お母さんの肛門付近にいる細菌たちと触れ合うことにより、いつの間にかたくさんの腸内細菌が赤ちゃんのお腹に棲みつくようになるのです。

これは自然の摂理で、いわば腸から栄養を吸収するための準備のようなものなのです。腸内細菌は、赤ちゃんが口にしたものを分解・合成して、栄葺につくりかえてくれるからです。

以前、アトピーが治らない赤ちゃんの便を調べたことがありましたが、その結果、40%の赤ちゃんの便から大腸菌がまったく検出きれませんでした。まるで生まれてすぐ無菌室に入れられ、無菌の栄養を与えられたような状態で育てたのでしょう。

そんなことからも、大腸菌をはじめとする腸内細菌にはアレルギーを抑える働きがあると推察されます。

さて、そんな生まれたばかりの赤ちゃんに必要なのは、お母さんのおっぱいです。母乳には赤ちゃんの免疫機能を高める効果があることはよく知られています。

では、母乳のどんな成分が、赤ちゃんにとっていい働きをするか紹介します。

  • オリゴ糖
    ビフィズス菌の餌となって腸内のビフィズス菌を増殖させます。
  • ラクトペルオキシダーゼ
    腸のなかに入ると抗菌作用を発揮します。
  • リゾチーム
    細菌の細胞壁を溶解させます。
  • ラクトフェリン
    鉄と結合することにより、腸内有害菌の増殖を抑制します。
  • 補体成分
    白血球などによる会食(異物を捕食する)作用を促進します。
  • 分泌型IgA
    腸管や気道における細菌・ウィルスの感染を防御します。

このように母乳のなかには体を防御するすばらしい物質が入っているのです。とくに生後3週間くらいまでの初乳には、腸内有害菌の増殖を抑制したり、腸管を成長させるなど、理想的な免疫システムを構築する作用があるのです。