清潔すぎる社会における弊害や落とし穴

洗いすぎは、肌荒れの一番の原因

最近、現代人に多い、皮膚病として脂漏性皮膚炎という病気があります。これは、洗いすぎることによって皮膚の免疫システムが崩れてしまい肌の抵抗力が落ちて皮膚炎ができるものです。頭皮にできる人も多く、現代特有の皮膚病です。

多くの場面で石けんで手を洗いましょう!と言われることが増えました。

インフルエンザやノロウィルスなど、感染症の脅威にさらされたとき、多くの人が1日に何度も、薬用石けんでゴシゴシ手を洗い、お母さん方は子どもたちにも何度も「手洗い、うがいをしないさい」と言います。

もちろん、手を洗うことは大事ですが、「薬用石けんでゴシゴシ」はいけません。手についたウィルスなどは、水道水を流しながら10秒も洗うと、落ちます。殺菌効果の高い薬用石けんで1日に何度も手洗いすると、ちゃんと皮膚常在菌という皮膚を守ってくれる細菌まで殺菌してしまって、かえってウィルスなどが皮膚に付着しやすくなります。

皮膚常在菌には、表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌をはじめとする約10種類以上の細菌があります。これらは皮膚の脂肪を食べて、脂肪酸の膜をつくり、皮膚を弱酸性に保ちます。そうして酸に弱い病原菌をシャットアウトしてくれるわけです。

洗いすぎると、その皮膚常在菌のつくる皮脂膜がはがれ、その下にある角質層に隙間ができてしまいます。皮膚を組織している細胞が、バラバラになって、ここから、ウィルスが侵入してしまうのです。

これは、アレルゲンについても同じです。手を洗いすぎて肌がカサカサになると、角質層の隙間からアレルゲンが侵入し、アトピー性皮庸炎や乾燥性皮庸炎を引き起こすことになるのです。

子どもたちにも、外で遊んで帰ってきた後や食事の前に手洗いさせることは必要ですが、よほどひどい汚れでない限り、薬用石けんは必要ありません。石けんを使うのは、1日に1、2回くらいでいいでしょう。

また、うがいについても同じことが言えます。ふだんの何でもないときにも殺菌作用の強いうがい薬を使うと、のどを守る菌までやっつけられ、逆に風邪やインフルエンザにかかりやすくなります。

日常的にはお茶や塩水でうがいをして、のどが痛いときだけ殺菌作用のあるうがい薬でうがいをすれば十分です。

以前、若い女性に「顔の肌がカサカサを通り越してゴワゴワ、ボロボロになってしまい、皮膚科に行っても治らない」というものがありました。

よく話を聞くと、その若い女性はとても神経質で、1日に5回も石けんで洗顔していることがわかりました。肌にトラブルがあったので「しっかり顔を洗わなくちゃ」と思ったのかもしれません。

にきびや吹き出物の半数以上は、洗いすぎによる皮脂の減少です。

すぐに過剰な洗眼で皮膚の常在菌がやられたとわかったので、「とにかく1ヶ月間、顔を洗うときに絶対、石けんを使わないでください。お化粧もしないでください。それで様子をみましょう」とアドバイスしました。たったそれだけのことですが、彼女の顔は2ヶ月でキレイに治りました。専門家の実験によれば、お風呂に入って石けんで体を洗うだけで、皮膚常在菌の90%が取れてしまうことが確認されています。

しかし、10 %が残っていると、若い人なら12時間で戻ります。ですから、若い人は1日に1回か2回くらい、石けんで体や顔を洗うのは支障ありません。しかし、年をとると、皮膚常在菌の発育が悪くなります。40歳以上になると、回復に20時間ほどかかります。

風呂には毎日入っても、石けんで洗うのは2日か3日に1回で十分なのです。美肌をつくるのに、洗いすぎは逆効果なのです。

抗菌・除菌グッズは肌には逆効果

抗菌・除菌グッズも石けんと同じように大流行しています。趣旨としては、「私たちの身の回りには、至るところにバイ菌がいるので、汚いものは寄せつけないように清潔にしましょう。イヤな匂いもいっばいあります。全部、無臭にしましょう」といったところでしょうか。

この種の商品には、細菌やカビ、匂い、虫などを防止または排除する効果が加えられています。いまや、食器洗いや洗濯で使う洗剤はもとより、台所用品、浴室用品、衣類、文房具等の日用品から、家の建材や内装材まで、さまざまな物に抗菌・除菌加工が施されています。今後もますます抗菌・除菌を謳った商品が増えるでしょう。

しかし、「抗菌・除菌」という言葉に明確な定義はないし、いったいどんな成分が含まれているのかもよくわからないのが実情です。しかも、先はどから述べているように、強い抗菌・除菌効果のあるものは、皮膚の常在菌のバランスを崩す危険があります。

とくに危険にさらされているのは、子どもたちです。子どもの肌は透き通るようなしっとりツルツル、とても柔らかいですが、それだけに大人に比べて、皮膚を守るバリア機能が弱く、ウィルスや細菌、はこりや汚れなどが侵入しやすいのです。いわゆる敏感肌です。

その柔らかな肌に強い抗菌・除菌作用のあるモノが触れたら、皮庸常在菌は一発でやられてしまいます。実際、抗菌マスクをした子どものなかには、口の周りがアレルギー性皮膚炎になってしまった、というケースもあるようです。「大事な子どもだから、清常に育てたい」

という親の気持ちもわからなくはありませんが、それは間違っています。大事な子どもだからこそ、細菌やウィルスを遠ざけてはいけないのです。神経質なお母さんは、とりあえず抗菌・除菌グッズをなるべく使わない生活から始めてみてはいかがでしょうか。
私たちの身の回りにいる細菌の多くが、よいこともしているとわかれば、だんだんに「清潔に対する免疫」ができてくると思います。

ウォシュレットの弊害

近年、若い層を中心に、膣炎になる女性が増えています。その理由と目されるのが、ウォシュレットによる洗いすぎです。女性の膣がキレイなのは、膣内にデーデルライン乳酸菌という細菌がいるからです。これは膣内環境にとって善玉菌なのです。グリコーゲンを食べて乳酸を産出することによって、膣を酸性に保ち、雑菌から守ってくれているのです。
ところが、「洗えばキレイになる」とばかりに、オシッコのたびにビデで洗っていると、デーデルライン乳酸菌が流されてしまいます。すると、乳酸ができなくなるので、膣は中性になります。結果的に雑菌を増殖させ、おりものが出てきて、膣炎になってしまうわけです。

ビデを使うと、膣がキレイになるように錯覚しがちですが、実は汚くしている、ということなのです。

トリコモナス膣炎という病気がありますが、病原体とされているトリコモナスは、実は組織を傷つけているわけではありません。実際、尿道でトリコモナスを飼っている男性の多くは、痛くもかゆくもないのです。しかし、セックスによって男性がそのトリコモナス原虫を女性の膣に運ぶと、デーデルライン乳酸菌のエサであるグリコーゲンを横取りします。それで、デーデルライン乳酸菌はエサを失って生きることができず、膣内に乳酸がなくなって中性になります。当然、雑菌が増殖し、おりものが出てきて炎症を起こします。

膣カンジダ再発の薬
https://kusiri-guide.com/archives/27

つまり、トリコモナス膣炎も膣の洗いすぎによる膣炎も、デーデルライン乳酸菌がいなくなるということで、原因は同じだということです。さらに怖いのは、妊婦の場合、ビデによる洗いすぎが早産や流産をも誘発する危険性があるのです。

「習慣的に温水洗浄便座を使用している人は、使用していない人に比べて、膣内の善玉菌である乳酸菌が著しく消失し、腸内細菌などによる汚染が目立ち、紳菌性膣症にかかりやすくなっていた」と結論づけました。

この調査は、妊娠していない19~40歳の女性で、温水洗浄便座(ウォッシュレット)を習慣的に使用している(使用者)人154人と、まったく使用しない、または、ときどき使用している(未使用者) 人114人を対象に実施されました。彼女たちの膣内分泌物を採取・分析した結果、乳酸菌を保有していない症例は、温水洗浄便座の未使用者でわずか8.7% であるのに対して、使用者では42.86% と、約5倍に上ることがわかりました。

さらに、腸内細菌が膣内から検出された症例の92%は温水洗浄便座の使用者であることも判明しました。

この調査結果からわかることは、日常的にビデで膣を洗う女性は、乳酸菌を洗い流したために、雑菌に対する抵抗力が低下しているということです。
それだけ膣炎にかかるリスクは高く、また早産や流産の原因の50~60% が膣炎であることから早産や流産をも誘発する危険がある、ということです。

お尻が痛いという男性が増えた

最近は若い男性を中心に、「便の後に温水洗浄便座を使わないと、お尻が痛くなる」人たちが増えています。肛門周辺が炎症を起こし、かぶれたり、ただれたりするからです。

これもやはり、お尻の洗いすぎによるものです。温水洗浄便座は1日にl回程度の使用なら問題はないし、痔の患者さんにとっては痛みを緩和してくれるありがたいものです。

でも、過度に使うと、お尻を守ってくれている皮膚常在菌を洗い流してしまうのです。当然、皮膚の抵抗力は弱まります。

近頃は、便座に座ってオシッコをする男性が増えていて、彼らの多くが排尿すると条件反射的に肛門に温水をかける傾向があるそうです。

なかでも大阪は、女性が強いせいか、「しぶきが飛ぶから、座ってオシッコしなさい」と言われて「温水洗浄便座派」の男性が多いという統計があります。
皮膚常在菌が流きれると、肛門周辺の皮膚が中性になります。すると、肌荒れと同じで、皮膚の角質層に隙間ができて、便のなかの普段は悪さをしない細菌が侵入して炎症を起こすのです。

ようするに、お尻を洗うのをやめれば、すぐに治るのですが、炎症を起こすと「もっとキレイにしなくては」と思うのでしょう。温水洗浄便座を使うだけではなく、お風呂に入って一生懸命に石けんでゴシゴシ洗ったりして、ますます炎症がひどくなるケースがよく見られます。

思い当たるふしのある男性は、しばらく温水洗浄便座を使わないようにしてください。炎症がひどい場合は時間がかかりますが、やがて皮膚常在菌が戻ってきます。そうしてお尻の健康を取り戻したら、1日に1回程度の使用に留めるといいでしょう。

ちなみに、女性には肛門の炎症があまり見られません。温水洗浄便座を使うのは便のときだけで、あとはもっばら「前」のほうを洗っているからだと思われます。

清潔関連ビジネスはお金になるという好都合

過剰清潔社会のカラクリがわかると、「どうして、世の中の清潔志向に歯止めがかからないのだろう」と不思議になってきます。

その理由の1つは、日本人の誰もがすべての寄生虫や、ウィルス・細菌が人間に害をおよぼす敵だと強く思っていることだと考えられます。これは多くの人の頭に刷り込まれているのです。

そして、もう1つの理由が、その思い込みを利用して、抗菌・除菌・消臭などと謳って、バイ菌を排除する商品が世に送り出されていることです。

しかしメーカー側は研究もしていますから、必要以上に菌を排除すると、逆に体に悪影響をおよぼすかもしれないことを知っているのです。それでも、過剰清潔社会を目指す世の中の流れに乗ったほうが、お金になるということでしょう。

消費者はもっと賢くならなくてはいけません。いつまでも抗菌とか除菌、消臭といった言葉に踊らきれていると、体が弱くなるばかりです。キレイ社会というのは言い換えれば、「異物を排除することを良し」とする社会です。

時と場合により、人間に悪さをする菌を排除することは大事ですが、何も悪さをせずにl万年の昔から人間と共生し、アレルギーを抑えることにも貢献してくれている菌まで悪者扱いするのは問題です。

キレイ社会の副産物とも言えるアレルギーにならないようにするためにも、私たちはそろそろ極端な清潔信仰と決別するべきでしょう。キレイの認識を改める時代がきているのでしょう。