
免疫のバランス は西洋医学では答えがだせない仕組みをもっています。これは、西洋医学が劣っていて東洋医学が勝っているということはありません。
免疫のバランス
免疫システムは、私たちの体を病原体(細菌、ウイルスなど)や異常な細胞(がん細胞など)から守るための、精巧な防御システムです。このシステムは、非常に多くの細胞や分子が連携して機能しています。
「免疫のバランスが取れている」とは、簡単に言うと、免疫システムが過不足なく適切に機能している状態を指します。
免疫のバランス」が複雑である理由と西洋医学の課題
「免疫のバランス」という言葉が示す広範な意味合いや、個々人の免疫システムが持つ複雑さゆえに、単純な「答え」が出しにくい側面があるのも確かです。
- 多様性と個別性:
個々人の免疫システムは、遺伝的要因、生活環境、腸内細菌叢、ストレスレベルなど、非常に多くの要因によって異なり、常に変動しています。そのため、「理想的な免疫バランス」を画一的に定義することは困難です。 - 相互作用の複雑性:
免疫システムは、単一の細胞や物質だけで機能しているわけではありません。無数の免疫細胞、分子が互いに複雑に作用し合い、時には助け合い、時には抑制し合ってバランスを保っています。このネットワーク全体の「バランス」を数値化したり、一つの指標で測ったりすることは非常に難しいのが現状です。 - 「最適な状態」の定義:
免疫の「バランスが良い」とは具体的にどういう状態を指すのか、定義が難しい側面があります。例えば、風邪をひきにくい状態が良いのか、アレルギー反応が出ない状態が良いのか、それともがん細胞をしっかり排除できる状態が良いのか、疾患によって「最適なバランス」の基準が異なります。 - 未解明な部分の存在:
これだけ研究が進んでいても、免疫システムの全容が解明されたわけではありません。特に、脳と免疫(心身相関)、腸内細菌と免疫のより詳細な相互作用など、まだ研究途上にある分野も多く存在します。
西洋医学のアプローチ
西洋医学は、「免疫のバランス」という抽象的な概念を直接治療するのではなく、免疫システムの「異常」や「病態」に焦点を当ててアプローチします。
- 過剰な反応の抑制: アレルギーや自己免疫疾患のように免疫が過剰に反応している状態では、その反応を抑えることを目指します。
- 低下した機能の増強: 免疫不全や感染症、がんのように免疫機能が低下している状態では、その機能をサポートまたは増強することを目指します。
- 原因の特定と除去: アレルギーであればアレルゲンの特定と回避、感染症であれば病原体の排除など、可能な限り原因を取り除くことに努めます。
まとめ
西洋医学は、免疫システムの異常によって引き起こされる疾患に対して、精密な診断技術と多岐にわたる治療選択肢を提供しています。しかし、「免疫のバランス」という言葉が内包する個体差や複雑な相互作用、未解明な領域が存在するがゆえに、全てに対して明確な「答え」を出し尽くしているわけではない、という認識は正しいかもしれません。
むしろ、西洋医学はこれらの複雑性を認識し、個々の病態に応じて最適なアプローチを探求し続けています。そして、腸内環境や生活習慣といった要素が免疫に与える影響についても、最新の研究で積極的に取り入れ、包括的な治療へと進化しようとしている段階にあると言えるでしょう。
寄生虫の分泌物から薬ができる
寄生虫の分泌物がアレルギーを抑えることを突き止めると「これは花粉症やアトピー、ぜんそくなどを一発で治す薬になる」と考えました。
いま、「遺伝子組み換え食品」が話題になっていますが、これもこういうやり方でつくられています。
そうして寄生虫の分泌物をたくさん手に入れると、次にネズミにアトピーを発症させて、この物質を投与する実験に入りました。ネズミにストレスを与えるため、ネズミが食事しょうとすると必ず尾っぽに電流を流すという方法です。
ネズミは餌を食べようとするたびに尾っぽに電流を受けるとひどくストレスを感じます。
生き物にとって、食べるという行為は生きるということです。この実験を繰り返すうちに免疫力がひどく落ちて、1ヶ月もすると大変にひどいアトピーになってしまいました。
よくお母さん方は子どもの食事中に「こぼしちゃダメ」「残しちゃダメ」「落ちたものを拾っちゃダメ」などと叱ったり、「もっと勉強しなさい」などと小言を言ったりしていますが、食事中にストレスを与えると、子どもの免疫力が落ちてしまいますので、注意してくだきい
「食事は楽しく」というのが、免疫力を下げない鉄則でもあるのです。
次に、皮下の肥満細胞がどんどん破れてひどいアトピーになったネズミに、寄生虫の分泌物を注射しました。その結果、1回の注射でひどいアトピーがすっかり治ってしまいました。けれどことはそう簡単ではありません。
アレルギーは治ってもガンになる!
「新薬」はアトピーを一発で治したのですが、これを薬として用いると、ウィルス感染やガンになりやすい体質になってしまうことが判明したのです。看過できない重大な副作用です。
人間の免疫には、アレルギーなどに対抗する液体性免疫をつくるTh2 と、ガンなどに対抗する細胞性免疫をつくるThlという2つの工場があります。「新薬」を投与すると、Th2が強大になるかわりに、Thl を小さくしてしまいます。Thl とTh2による免疫バランスを崩してしまったのです。
人間の体には、毎日3千個、多い人なら7千個のガン紳胞が生まれています。それなのにガンにならないのは、NK 細胞や、Thl が産生するインターフェロンなどが、日々ガン細胞を監視して、見つけてはやっつけてくれているからです。
そのガン退治に重要な役割を果たすThlが小さくなると、出てくるガン細胞を見逃してしまう可能性が高くなるのです。年をとるとガンになりやすいのも、Thlが小さくなるからです。
寄生虫の分泌物は、Th2の機能を高めてアレルギー反応を抑えたもののTh1の機能を低めてガンになりやすい体質にしてしまったのです。
ここで「それならば、Thl を大きくする薬を開発して、同時に投与すればいいじゃないか」と思う人もいるでしょう。私もその可能性を探りました。しかし、寄生虫からTh1を刺激する物質を探して注射したところ、それに対する抗体ができてしまったのです。結局、この物質を直接お腹に入れないとダメなんだとわかりました。
理論上はお腹のなかにチェンバーという箱を入れて、そこから抗原物質を吸収するようにすれば可能ですが、そんなことは現実問題不可能です。これを人間の体内でやってのける寄生虫はすどいと、再認識したしだいです。
ここに至って、アレルギーを一発で治す「新薬」の夢は絶たれました。結果、わかったのは、「アレルギーやガンのような免疫バランスに関わる病気は、西洋医学的アプローチでは解決できない」ということです。
西洋医学は、1つの薬で1つの病気を治すというものです。西洋医学から見るとアレルギーを一発で治したのですから、そのような新薬を発見した勝利者といえます。しかし、ガンやアレルギーなどのバランスの病気には西洋医学は無力で、東洋医学的なアプローチが必要なのです。
東洋医学は、人間の体を総合的に診て、いろんな成分を含む自然の生薬を投与したり、体温を上げたり、バランスのいい食生活にしたりすることを指導します。つまり、自然治癒力を導き出すようにしたのです。ところが、よかれとして作ってきた現代社会は、そういった自然治癒力を低下するように誘導してきたのです。
東洋医学が考える「免疫のバランス」:生命エネルギーの調和
東洋医学では、現代西洋医学のように特定の細胞や分子の働きに焦点を当てるのではなく、生命全体を構成するエネルギーや物質の調和を「免疫のバランス」として捉えます。このバランスが取れている状態を「健康」とし、崩れた状態を「病気」と考えます。
東洋医学における免疫のバランスを理解するには、以下の主要な概念が重要です。
1. 気・血・水(き・けつ・すい)のバランス
東洋医学では、私たちの体を構成し、生命活動を支える基本要素を「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」の三つと考えます。これらがお互いに協力し合い、滞りなく巡っている状態が健康であり、免疫が正常に機能している状態とされます。
- 気(き):
生命エネルギーそのものです。目には見えませんが、体を温めたり、臓腑を動かしたり、精神活動を支えたりするあらゆる生命活動の原動力と考えられています。東洋医学において、西洋医学でいう「免疫力」に最も近い概念は、この「気」の中の「衛気(えき)」です。- 衛気(えき): 体の表面を巡り、皮膚や粘膜など「バリア機能」を司ります。外から侵入する邪気(ウイルス、細菌、花粉などの病原体や、寒さ、暑さなどの環境要因)から体を守る防御システムとして働きます。衛気が不足すると、風邪をひきやすい、アレルギー症状が出やすい、疲れやすいといった状態になります。
- 血(けつ):
西洋医学の血液に相当しますが、それに加えて体全体に栄養や熱を運び、精神活動を支える働きも含まれます。血が不足したり、巡りが滞ったり(瘀血:おけつ)すると、全身に栄養が行き渡らず、免疫機能も低下すると考えられます。 - 水(すい):
体内のすべての水分(体液、消化液、リンパ液など)を指します。潤いを与え、老廃物を排出し、体温を調整するなどの役割があります。水の巡りが滞ったり(水滞・水毒:すいどく)、不足したり(陰虚:いんきょ)すると、体内に不要なものが溜まったり、乾燥してバリア機能が弱まったりし、免疫のバランスが崩れる原因となります。
2. 五臓六腑(ごぞうろっぷ)の働き
東洋医学における五臓(肝・心・脾・肺・腎)と六腑(胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦)は、特定の臓器そのものだけでなく、それらが担う生理機能のネットワークを指します。これらの働きが相互に連携し、調和していることが免疫のバランスに直結すると考えられています。
特に免疫と関連が深いとされるのは以下の五臓です。
- 脾(ひ):
飲食物から「気」「血」「水」を作り出し、全身に運ぶ役割(消化吸収機能)を担います。脾の働きが弱まると、生命エネルギーである「気」が不足し、免疫力も低下すると考えられます。いわゆる「胃腸の健康が免疫に繋がる」という考え方に通じます。 - 肺(はい):
呼吸を通じて天の「気」を取り込み、全身の「気」の巡りを司ります。また、皮膚や粘膜のバリア機能である「衛気」を全身に巡らせる役割も持つため、肺の機能が弱いと風邪をひきやすくなったり、皮膚トラブルやアレルギーが生じやすくなったりすると考えられます。 - 腎(じん):
生命活動の根源的なエネルギー(精:せい)を貯蔵し、成長・発育、生殖、老化、そして免疫機能の基礎を司ります。腎の機能が低下すると、全身の活力や抵抗力が落ち、疲れやすさやアレルギー体質などにつながることがあります。
3. 正気(せいき)と邪気(じゃき)
東洋医学では、体内の病気に対する抵抗力を「正気」、病気の原因となる外部の要因を「邪気」と呼びます。
- 正気: 前述の「気」「血」「水」や五臓六腑の機能がバランスよく整っている状態が、正気が充実している状態です。正気が充実していれば、邪気が侵入しても病気になりにくく、また病気になっても回復が早まります。
- 邪気: ウイルス、細菌、花粉、ストレス、過労、不規則な生活、冷え、湿気など、病気を引き起こすあらゆる外的・内的要因を指します。
正気と邪気の勢力関係で病気になるかどうかが決まるという考え方です。正気が邪気に打ち勝てば病気にはならず、邪気が優勢になれば病気になると捉えます。
東洋医学における免疫バランスを整えるアプローチ
東洋医学では、上記の概念に基づき、個人の体質や現在の状態を総合的に判断し、バランスの乱れを整えることで免疫力を高めることを目指します。
- 漢方薬:
個々の「証」(体質や病状のパターン)に合わせて、気・血・水の不足を補ったり、滞りを改善したり、特定の臓腑の働きを助けたりする生薬を組み合わせた漢方薬が用いられます。例えば、「気」を補う補中益気湯や十全大補湯などが、免疫力向上に繋がる漢方薬として知られています。 - 鍼灸(しんきゅう):
経絡(気の通り道)やツボを刺激することで、気・血・水の巡りを改善し、各臓腑の機能を調整します。特定のツボ(足三里、関元など)は免疫力向上に効果があると言われています。 - 食養生(しょくようじょう):
個人の体質や季節に合わせて、体を温める食材、気を補う食材、血を補う食材などを意識して取り入れます。加工食品や冷たいものの過剰摂取を避け、自然な食材をバランスよく摂ることが重視されます。 - 生活習慣の見直し:
規則正しい睡眠、適度な運動、ストレス管理など、自律神経のバランスを整え、気・血・水の巡りを良くする生活習慣が推奨されます。特に、体を冷やさないこと(温活)は、免疫機能の維持に重要だと考えられています。
東洋医学が考える免疫のバランスは、西洋医学とは異なる視点から体を捉え、病気の根本的な原因にアプローチしようとするものです。単に病原体を排除する力だけでなく、体全体の生命力や調和を重視し、未病(病気になる前の不調)の段階からケアすることで、病気になりにくい体質を作っていくことを目指します。