現代食と腸内環境
食物アレルギーや肥満、炎症性腸疾患などといった典型的な「現代病」が広がっていますが、こうした症状の原因は、食生活や衛生環境の影響による腸内細菌叢の変化と関連していると考えられます。
アフリカ原住民の子どもと、イタリアで都市生活をしている子どもの腸内細菌叢を比較した研究があります。高食物繊維・低カロリー食で成長したアフリカ原住民の子どもの腸内細菌叢では、日和見菌とされている「バクテロイデーテス門」に属する細菌が優勢だったのに対し、低食物繊維・高カロリー食で育ったイタリアの子どもでは悪玉菌とされている「フィルミクテス門」に属する細菌が優勢でした。
そして、アフリカ原住民の子どもの腸内細菌は、食物繊維から短鎖脂肪酸を合成できる能力の優れた細菌種でした。これらの細菌種によって作り出される短鎖脂肪酸には腸の炎症を抑える作用があり、それがアフリカ人に炎症性腸炎がほとんど見られない原因だと推測されます。
さらにアフリカ原住民の子どもの腸内細菌叢は、イタリア人で都市型生活をしている子どもとくらべて多様な細菌種から構成されていました。こうした多種類で数も多い腸内細菌によって、免疫機能は強化され、ガンにもなりにくく、アレルギー反応も起こらない体になるのです。
腸内細菌は子ともの脳にも影響を与える
研究が進むにつれ、腸内細菌が私たちの気分や感情、人格にまで影響を与えていることが明らかにされてきました。人はそれぞれ気分や人格、思考過程が違うものですが、これもまた腸内細菌の影響なのです。
腸内細菌は脳での遺伝子発現にも影響し、記憶と学習に関係する重要な脳領域の発達を左右していることがわかってきたのです。
脳内の伝達物質である「ドーパミン」や「セロトニン」は腸内細菌によっで合成され、その前駆物質が脳に送られていることを私たちは数年前に報告しました。
それを裏づける研究報告がアイルランドのコーク大学J・F・クリアン博士らによって発表されました。クリアン博士らは、幼少期のマウスが腸内細菌を持たなかった場合、成長彼のセロトニン量がどのように変化するのかを調べたのです。
その結果、腸内細菌を持たないマウスは中枢神経系の多くの部分でセロトニン量が少なくなっていました。とくに雄のマウスではその傾向が顕著にみられました。腸内細菌のない幼少期のマウスに腸内細菌を移入すると脳内のセロトニン量は増えましたが、腸内細菌のない大人のマウスに腸内細菌を移入してもセロトニン量は変わらなかったということです。
こうしたことからも、腸内細菌が脳の発達に重要な役割を果たしていることは明らかでぁり、特に子どもの発達期における腸内環境の改善はとても重要なことだということがわかるのです。